はじめに

障害者グループホームは、障害者が自立した生活を送るための支援を受けながら、共同生活をすることができる施設です。

しかし、利用するには、食費や家賃など、さまざまな費用が必要です。 これらの費用は、障害者本人やその家族が負担することになります。 では、障害者グループホームの費用は、どれくらいなのでしょうか? また、障害者本人の収入だけで足りるのでしょうか?

この記事では、障害者グループホームの利用者が支払うことになる費用について、詳しく解説します。

障害者グループホームの費用の代表例

障害者グループホーム(共同生活援助)を利用する場合に必要になる費用として代表的なものは、次のとおりです。これらの費用は、障害者グループホームに毎月直接支払うというのが一般的です。

  1. 共同生活援助の利用者負担分
  2. 食材料費
  3. 家賃
  4. 光熱水費
  5. 日用品費
  6. その他

このうち、2.から6.までの費用を「特定費用」(障害者総合支援法29条1項同施行規則25条4号)といいます。2003年(平成15年)4月に導入された「支援費制度」では、食事の提供に要する費用などは給付の対象でしたので、利用者が支払う必要はありませんでした。しかし、現在は、給付の対象外となっていますので、利用者が支払う必要があります。

これから、1.から6.の費用について、詳しく解説します。

共同生活援助の利用者負担分

障害福祉サービスが利用されると、市町村は、障害福祉サービスを提供している事業者に対して、障害福祉サービスの費用を支払います(障害者総合支援法29条1項4項5項)。

ただし、利用者の家計の負担能力によっては、障害福祉サービスの費用の一部を負担することがあります(障害者総合支援法29条3項)。いわゆる「応能負担」と呼ばれる仕組みです。

利用者が自己負担する月額は、家計の負担能力によって、次の4段階に分かれています(障害者総合支援法施行令17条)。

  1. 0円
  2. 4,600円
  3. 9,300円
  4. 37,200円

共同生活援助の場合は、この4段階のうち、4,600円と9,300円というのはありません。つまり、利用者負担額は、0円か37,200円のどちらかということになります。

0円になる人は、生活保護を受給している世帯か、市町村民税が課税されない世帯だけです。他方、市町村民税が課税されている世帯は、37,200円となります。

市町村税が課税される年収の目安は100万円といわれています。ですので、一般雇用や障害者雇用で年収が100万円以上あると、利用者負担額は月額37,200円となる場合もあります。他方、就労継続支援A型の2021年度の平均賃金は約8万1000円で、B型の平均工賃は約1万6000円です(厚生労働省「令和3年度工賃(賃金)の実績について」)ので、就労継続支援A型・B型、生活介護に通っている利用者は、市町村税非課税になり、利用者負担なしとなることが一般的です。

なお、障害年金は非課税所得なので、障害年金は年収には含まれません。

食材料費

障害者グループホームでは、利用者に食事が提供されることが一般的です。食事を提供するためには、食材や調味料、調理する必要があります。このうち、食材や調味料については食材料費として、実際にかかった費用(実費)を食事の提供を受けた利用者は、支払う必要があります。一食300円と一律の場合もあれば、朝食、昼食、夕食、平日、土日祝日で金額が変わるところもあります。

食材料費は実費ですので、食事の提供を受けなかった場合には、もちろん支払う必要はありません。

この食材料費について、2023年9月、12の都県で約120の障害者グループホームを運営している株式会社恵(2012年設立)は、同社が運営する複数のグループホームで実費を上回る金額の食材料費を徴収していたことが発覚し報道されました。同社が運営する神奈川県川崎市のグループホームでは、実際の食材料費は利用者一人当たり月約7500円であるにもかかわらず、約2万4000円を徴収していたと報道されています(東京新聞)。このような過大徴収は外部からはなかなかわからないので、注意が必要です。

家賃

障害者グループホームの居室は、単身者であれば個室となります(基準210条8項1号)。個室の広さは収納設備を除いて4.5畳以上の広さとなります(基準210条8項2号)。利用者は、居室の他に、お風呂、トイレ、洗面所、台所などの日常生活を営む上で必要な設備、食堂などの利用者が交流できる設備を利用することができます(基準210条6項8項)。

これら居室などを利用するためには、利用者は家賃を支払う必要があります。

家賃は食材料費と同じく、実際にかかった費用(実費)となります。障害者グループホームの事業者が、利用者が支払う家賃を設定することになります。その家賃の設定の基本的な考え方を説明します(仙台市「共同生活援助における利用者負担額等の受領にかかる取扱いについて」福島市「共同生活援助における利用者負担額等の取扱いについて」水戸市「共同生活援助において利用者から受領が可能な費用の取扱いについて(お知らせ)」)。その障害者グループホームが賃貸建物の場合は、次のような関係になります。

家賃の設定(賃貸建物の場合)

利用者が支払う家賃 ≦ 障害者GHの事業者が大家に支払う家賃 ÷ GHの定員

例えば、家賃12万円の戸建て住宅を定員4人の障害者グループホームに利用する場合は、利用者が支払う家賃は3万円以下ということになります。

家賃の設定(自己所有建物の場合)

障害者グループホーム事業者の自己所有の建物を障害者グループホームに利用する場合は、次のような計算で、利用者一人当たりの金額を決めます。

建物の建設費用または購入費用(土地代を除く) ÷ 回収期間 ÷ GHの定員

この計算式によると、障害者グループホーム事業者が回収期間をどれくらいと設定するかによって、利用者の支払う家賃が変わります。ただし、利用者の支払う家賃が、同条件の賃貸物件の近隣相場よりも大幅に上回らないようにしなければならないという制約はあります。

家賃補助(補足給付)

このように障害者グループホームの家賃は設定されます。この設定された家賃から家賃補助の金額を差し引いた金額を、利用者が支払うことになります。

この家賃補助は、いわゆる「補足給付」と呼ばれるもので、正式には「特定障害者特別給付費」といいます(障害者総合支援法34条1項)。家賃補助は、所得の少ない利用者の負担を軽減するためのものなので、市町村税非課税世帯か生活保護受給世帯に限られます(規則34条2号施行令17条4号)。つまり、先ほど説明した共同生活援助の利用者負担分がゼロの利用者であれば、家賃補助を受けられることになります。

家賃補助の金額は、月額1万円となっています(令21条1項2号平成23年厚生労働省告示第354号)。ただし、地方自治体によっては、家賃補助に上乗せするところもあります(東京都立川市兵庫県神戸市千葉県船橋市神奈川県小田原市兵庫県宝塚市千葉県浦安市など)。

光熱水費

電気、ガス、水道代についても、利用者が実際にかかった費用(実費)を支払う必要があります。しかし、毎月実費を利用者に請求するのは、障害者グループホーム側の事務が煩雑になるため、光熱水費は一定の概算額を請求するところも多いです。

このように概算額で請求する場合は、定期的に精算して、実費が概算額よりも下回って、余剰金が生じた場合には、利用者に返金しなければなりません(仙台市「共同生活援助における利用者負担額等の受領にかかる取扱いについて」福島市「共同生活援助における利用者負担額等の取扱いについて」水戸市「共同生活援助において利用者から受領が可能な費用の取扱いについて(お知らせ)」)。

日用品費

共同生活において必要となる共用の日用品費についても、利用者が支払うことになります。共用の日用品の例として、トイレットペーパー、台所または洗濯洗剤、石鹸・シャンプーなどです。

これも概算額で請求している場合には、定期的に精算して、余剰金が生じた場合には、利用者に返金しなればなりません(仙台市「共同生活援助における利用者負担額等の受領にかかる取扱いについて」福島市「共同生活援助における利用者負担額等の取扱いについて」水戸市「共同生活援助において利用者から受領が可能な費用の取扱いについて(お知らせ)」)。

その他の日常生活費

食費、家賃、水道光熱費、日用品費以外で、共同生活援助において提供される便宜に要する費用のうち、日常生活においても通常認められるものに係る費用であって、その利用者に負担させることが適当と認められるものも、利用者が負担します(規則25条4号ホ)。

これを「その他の日常生活費」といい、詳しい内容は、「障害福祉サービス等における日常生活に要する費用の取扱いについて」という厚生労働省の通知に書かれています。

その他の日常生活費の具体的な内容として、次の3つがあります。

  1. 利用者の希望によって、身の回り品として日常生活に必要なもの(例えば、歯ブラシや化粧品などの個人用の日用品)
  2. 利用者の希望によって、教養娯楽などとして日常生活に必要なもの(例えば、GHのクラブ活動やイベントの材料費など)
  3. 利用者の希望による送迎費用

その他の日常生活費は利用者が希望する場合にかかる費用なので、すべての利用者が支払う費用ではありません。また、毎月必ずかかる費用というわけでもありません。

費用総額の実態

最後に、障害者グループホームの利用者が事業者に支払っている金額についてのデータを紹介します。日本知的障害者福祉協会が毎年行なっている実態調査の最新版「令和3年度全国グループホーム実態調査報告」15ページによると、次のとおりです。

金額割合
3万円未満1,1414.1%
3万円以上4万円未満3,14411.4%
4万円以上5万円未満7,21526.2%
5万円以上6万円未満7,51227.3%
6万円以上7万円未満4,04414.7%
7万円以上3,29712%
無回答1,1744.3%
表17 負担総額(※実負担額(助成後)※利用料自己負担額+家賃+水光熱費+食費+その他)

4万円以上5万円未満と5万円以上6万円未満を合わせると全体の約半数となっています。しかし、首都圏や大都市圏では、7万円以上も少なくないです。

政令指定都市である埼玉県さいたま市の障害者グループホームで私が知っているところだと、次のとおりです。

費目金額
家賃補助を引いた家賃3万5000円
食材料費3万円から4万円
水道光熱費1万5000円
日用品費3000円〜5000円
合計85,000円から9万円
埼玉県さいたま市の例

障害者本人の収入で足りるか?

これらの障害者グループホームの費用を障害者本人の収入だけで足りるかどうかについて検討します。障害者の収入源は、次の4つとなります。

  1. 障害基礎年金 1級8万1000円 2級6万5000円
  2. 特別障害者手当 2万8000円
  3. 工賃 就労継続支援B型 平均1万6000円 生活介護 平均4000円
  4. 賃金 就労継続支援A型 平均8万1000円 障害者雇用 平均12万円

これら5つの収入源の組み合わせとして、下の表にある6つのケースが考えられます。

ケース収入源合計金額検討結果
1障害基礎年金1級
特別障害者手当
10万9000円足りる
2障害基礎年金1級
生活介護
8万5000円都市部は厳しい
3障害基礎年金2級
就労継続支援B型
8万1000円都市部は厳しい
4 障害基礎年金2級
就労継続支援A型
14万6000円足りる
5障害基礎年金2級
障害者雇用
18万5000円足りる
6障害者雇用12万円都市部は厳しい ∵利用者負担
ケース別の検討結果

6つのケースのうち、ケース1と4と5は10万円以上の収入があるので障害者本人の収入だけで障害者グループホームの費用を賄うことができます。他方、ケース2と3と6は、利用者が支払う費用の総額が6万円を下回るようなところであれば大丈夫です。しかし、総額が8万円を超えることになる都市部の障害者グループホームの場合はギリギリが足りないといったところでしょう。

おわりに

障害者グループホームを利用する際に利用者が支払うことになるお金、費用についての解説でした。簡単にまとめると、収入の中心が障害年金である障害者であっても、食費、家賃、水道光熱費、日用品費などについて、実際にかかった費用を負担することになります。

2023年9月に報道されたグループホームでの食費の過大徴収問題からも分かるように、食費や家賃などは実際にかかった金額以上を事業者がとってはいけないことになっているにもかかわらず、とっている事業者があることがわかりました。

私も仕事関係で障害者グループホームの請求書や領収書を見ることがあります。中には、家賃や水道光熱費は高くない?と思うこともあります。請求書や領収書に、実費の根拠となる資料、例えば事業者側がグループホームの大家や電力会社などに支払っている家賃や電気代などの領収書のコピーが付けられているのを見たことはありません。

利用者側から、実費の裏付け資料を見せてくれとはいいにくいです。ですので、障害者グループホーム側で積極的に開示して、透明性を高めてほしいです。そうすると、利用者側は安心して利用できるのにと思います。