障害者の親亡き後に不動産を残す

メリット

  1. 住み慣れた自宅を障害者本人の生活の場にできる
  2. 生活の場を失うリスクは小さい
  3. 本人や家族の収入増・支出減

親の居住用不動産は、障害者本人も長期間住んでいるのが一般的です。つまり、住み慣れた自宅を障害者本人の生活の場としてすることができます。我が家のように、親離れ・自立先として、一人暮らしを希望している場合には、特に大切になります。

障害者の自立先として、次の3つが代表的です。

  1. 障害者支援施設
  2. 障害者グループホーム
  3. 一人暮らし(賃貸・持ち家)

障害者支援施設、障害者グループホーム、賃貸アパートに入ることができたとしても、そこが終の住処になるかはわかりません。障害者本人の問題行動(他害や騒音など)、福祉事業者の経営悪化、大家の都合などで退所・退去を余儀なくされるリスクはあります。それに対して、持ち家の一人暮らしの場合、一人暮らしが困難になることはあるにしても、持ち家から追い出されることは、通常あり得ません。ですので、他の選択肢に比べて、終の住処になる可能性は一番高いでしょう。

持ち家の住居に関する固定費は、固定資産税、共益費、修繕などに関する積立ぐらいで、一般的に賃貸よりも少ないので、障害者本人の生活費を節約することができます。

また、一人暮らしが困難な障害者の場合、持ち家を賃貸に出すことで、障害者本人の収入を増やすこともできます。

このように、障害者の親亡き後の備えとして、障害者に不動産を残すことはメリットがそれなりにあります。

デメリット

他方、不動産を所有することのデメリットは、住宅ローンの支払いが長期間であること、不動産の管理と維持に費用と手間がかかることぐらいです。障害者の親亡き後の段階では、住宅ローンは完済していることが通常ですので、デメリットは後者ぐらいです。

したがって、障害者の親亡き後の備えとして、障害者に不動産を残すことは、十分に検討するに値すると思っています。

私は、すでに自宅不動産を所有しているので、これをどのように障害の子どもにとって有効活用できるかについては、深く関心を持っています。

不動産を障害者の所有・名義にすることの問題点

遺言・贈与

障害者の親亡き後の備えとして、自宅不動産を障害者に残す典型的な方法は、遺言か贈与契約によって、自宅不動産の名義を、親の死後に障害者の所有・名義にすることです。

遺言は、親の一方的な意思で、自宅不動産を障害者本人の所有・名義にすることができます。他方、贈与は契約なので、障害者本人が贈与契約の意味を理解し、贈与契約書に署名押印できる能力が必要です。したがって、遺言で残すというのが無難でしょう。

遺言を残さなかったり、贈与契約を結ばなかったりした場合、法定相続人が複数いると、自宅不動産は法定相続人全員で共有ということになり、遺産分割協議をしないと、障害者本人の単独所有・名義にはならないので、ご注意ください。

成年後見人などによる管理維持

固定資産税の支払い手続き、自宅不動産の管理や維持について、支援者のサポートがあってもできない障害者の場合は、成年後見制度を利用して、成年後見人か保佐人をつけて、自宅不動産の管理や維持をしてもらう必要があります。

そこで気になるのが、成年後見人や保佐人の報酬だと思います。成年後見人などの報酬は現金預金、有価証券などの流動資産の総額を基準にして決まりますので、固定資産である不動産を所有していても、成年後見人などの報酬額は変わりません。そして、障害者本人が自宅不動産を所有していても、市町村の成年後見制度利用支援事業(成年後見人などの報酬助成)も受けられるところが大半でしょう。

このように成年後見においては、自宅不動産の所有にデメリットはありません。しかし、生活保護との関係では、注意しなければならないことがあります。

生活保護に問題

収入の中心が障害基礎年金である障害者の場合、障害基礎年金だけでは、健康で文化的な最低限度の生活を送ることはできません。そのため、国が定める最低レベルの生活を送るためには、生活保護の受給が必要となる障害者は少なくありません。

しかし、自宅不動産を所有している障害者の場合、その自宅不動産の価値によっては、その自宅不動産を売却しなければ、生活保護を受給できないということがあります。その価値というのは、地域によって異なるかも知れませんが、2000万円程度と言われています(不動産保有の考え方)。ですので、2000万円以上の価値のある自宅不動産を残しても、結局、自宅不動産の売却を余儀なくされることがあります。

私の所有している自宅不動産は中古で購入していますが、購入価格は上記基準額以上です。建物の価値はいずれゼロになりますが、土地の価値はどうなるかわかりません。

不動産の売却を避ける方法

  1. 生活保護を受給しなくてもすむだけの資金を残す
  2. 自宅不動産の名義を障害者本人以外にする

1の対策ですが、これはできるに越したことはないです。が、実際にできるかどうかはわかりません。

自宅不動産を障害者本人以外の所有・名義にする方法

1の対策ができるかわからない場合には、2の対策も検討、準備する必要があります。2の対策の具体的な方法は、大きく次の2つが挙げられます。この2つの対策について、詳しく解説します。

  1. 信託
  2. 負担付き遺贈 or 負担付き死因贈与契約

信託の活用

自宅不動産を所有している障害者の親は、信用できる第三者に自宅不動産を託すことができます。財産を託す側を「委託者」、託される側を「受託者」といいます。

委託者と受託者との間で「信託」契約を結ぶことで、自宅不動産の所有者・名義人は、委託者である親から受託者に変わります。もっとも、受託者は、自宅不動産の所有者・名義人になっても、その自宅不動産を自由に売ったり使ったりはできません。

「信託」契約には、託した財産(「信託財産」といいます)をなんのために利用するかについて、決められています。受託者は、この信託の目的の範囲内でしか、信託財産を利用することはできません。

信託財産の利用目的として、障害者の親亡き後のためであれば、例えば、委託者である親が亡くなった後、受託者の方で自宅不動産を借りる人を見つけて、賃貸契約を結び、その家賃を障害のある子どもに支払うとか、自宅不動産を人に貸すのではなく、障害のある子どもを無償で住まわせて、受託者は固定資産税の支払いや、不動産の維持管理を行うなどです。信託であれば、こういうことが可能になります。

信託財産を賃貸に出して、その家賃を受け取るという権利、信託財産に無償で住むことができる権利を受けることができる障害のある子どもを「受益者」といいます。

信託契約によって、自宅不動産の所有者・名義人は、受託者に変更されているので、障害者が生活保護を受けることになっても、自宅不動産を売却しない限り、生活保護を受けられないということにはならないと考えられます。

信託を活用すれば、自宅不動産から得られる利益を障害のある子どもが受けられる一方で、自宅不動産の管理維持は受託者が行うので、自宅不動産を障害のある子どものために有効活用したいという障害者の親の思いを実現することができます。

信託の問題点

ただし、信託には、大きな制限があります。それは、受託者になれるのは、信託銀行や信託会社か、委託者の家族・親族しかなれず、社会福祉法人やNPO法人などの非営利団体、弁護士などの法律家は受託者になれません。

「不動産管理信託」を行う信託会社は、あります。ただし、大手建築会社のグループ会社で、そこで建物を建てた顧客向けのサービスだったり、投資用・収益マンション・アパートを対象とするなど、誰でも「不動産管理信託」を利用できるわけではありません。

したがって、不動産の信託について、受託者になれるは、委託者の家族・親族に限られるのが現状です。そして、障害者の親亡き後という観点では、受託者は受益者である障害者より年齢が若い方が望ましいので、受託者に適しているのは、実質的には、障害者のきょうだい児しかいません。

今後、非営利団体や弁護士などが受託者になれるように、信託関係の法律が改正される可能性はあります。が、現状は、不動産の信託は、きょうだい児がいる家庭で、しかもきょうだい児が受託者になることを了承しない限り、使えないといっていいでしょう。

負担付き死因贈与や負担付き遺贈の活用

私の子どもには、きょうだい児はいませんし、今後もできることはまずありません。きょうだい児がいない家庭の場合、自宅不動産を障害者本人に残すしかないのでしょうか。実は、信託以外にも方法があります。それが、負担付き死因贈与契約、または、負担付き遺贈という方法です。

自宅不動産を所有する障害者の親が亡くなった後に、信頼できる第三者に自宅不動産を与えて、自宅不動産の所有者・名義人をその信頼できる第三者に無償で贈与します。ここまでが、死因贈与契約または遺贈の部分になります。

障害者の親は、自宅不動産を無償で贈与する代わりに、自宅不動産をもらう第三者に対して、義務を課すことができます。この部分が「負担付き」の部分になります。義務の具体例として、次のようなものが考えられます。

  • 障害のある子どもに対して、毎月10万円を支払う義務
  • もらった不動産に障害のある子どもを無償で住まわせる義務

このように、負担付き死因贈与・遺贈でも、自宅不動産の名義を障害のある子ども以外にする一方で、自宅不動産による利益を障害のある子どもが得ること、つまり、信託と似たようなことは可能になります。

信託と負担付き死因贈与・遺贈の比較

負担付き死因贈与・遺贈の場合、自宅不動産を贈与する相手に制限はありません。社会福祉法人などの非営利団体や弁護士でも可能です。その点は、信託にはないメリットがあります。

他方、デメリットもあります。特に、信託には、倒産隔離機能があるのに対して、負担付き死因贈与・遺贈には、そのような機能はありません。

倒産隔離機能とは、簡単にいうと、受託者が破産・倒産しても、信託財産は失われずに保護されるという機能です。負担付き死因贈与・遺贈の場合、自宅不動産をもらった第三者が倒産・破産した場合には、その自宅不動産も手放すことになり、障害のある子どもは、その自宅不動産に無償で住む権利はなくなるでしょう。

そのため、負担付き死因贈与・遺贈の場合は、自宅不動産を贈与する相手を慎重に選ばなくてはなりません。つまり、安定的な経営をしている個人・法人を探す必要があります。社会福祉法人は、その社会的意義から保護されており、比較的に経営は安定しているといます。ただ、現在は、社会福祉法人の経営破綻はないわけではないので、社会福祉法人だから大丈夫とはいえません。

負担付き死因贈与・遺贈を活用するためには、その相手方となって協力してくれる個人・法人探し・選びが重要になります。

親の会などが負担付き死因贈与・遺贈の相手方にする

障害者の親亡き後の備えとして、負担付き死因贈与・遺贈を活用する上で、1番の問題点は、その相手方となってくれる個人・法人探し・選びです。協力してくれる個人・法人がないのであれば、障害者の親や家族で、相手方となる法人を設立するというはどうでしょうか。

死因贈与・遺贈は相続税の対象ですが、法人であれば原則として相続税は課せられません。

また、贈与された不動産を賃貸に出す場合、借主の募集や不動産の管理自体は、管理会社に依頼し、年額の賃料から管理費と固定資産税、修繕などのための積立金を差し引いいて、障害者に渡すようにすれば、法人の支出は抑えられます。

他方、贈与された不動産に障害者が住む場合には、遺贈される財産は不動産だけではなく、将来の固定資産税や、修繕等の費用も含めて、遺贈・死因贈与を受ければ、同様に法人の支出は抑えられます。

障害者の親亡き後の不動産管理に特化した法人であれば、初期コスト・イニシャルコストが少なくても、なんとかなるのではないかと思っています。私自身、負担付き死因贈与・遺贈を活用するかもしれないので、さらに検討や調査をしていきたいと思います。

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