はじめに


民法という法律で、発見した遺言書は裁判所で検認という手続きをしなければならないと決まっています。


遺言書の検認とは?
検認とは、遺言書の内容や状態を明確にして、検認が行われた後に偽造・変造を防止する手続です。
遺言書を検認したからといって、遺言書が有効であると家庭裁判所がお墨付きをしてくれるわけではありません。検認は、検認された日に、遺言書の内容や状態がどうであったかを家庭裁判所が証明するための手続きです。
検認をしなければならない遺言書の種類


民法は、次のように定めています。
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
民法1004条
このように、公正証書遺言については、検認を不要としています。つまり、現時点では、公正証書遺言以外の遺言書は検認は必須です。
ただし、2020年7月10日から実施される自筆証書遺言の保管制度を利用すると、検認が不要となります。
遺言書の開封
自筆証書遺言は、封筒に入れて封印する必要はありません。が、偽造・変造や、中身を見られることを防止するために、「封印」されることがあります。このような場合には、どうしたらいいでしょうか?
民法には次のように定めています。
封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
民法1004条3項
つまり、封印されている自筆証書遺言書は、家庭裁判所で開封の手続きが必要となります。
なお、開封後に直ちに検認をするため、開封と検認を別々に申し立てなくてもよいというのが実務の取り扱いです。
家庭裁判所で開封・検認しなかった場合

民法は、次のように定めています。
前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
民法1005条
つまり、5万円以下の過料という行政罰(≠刑罰)になるだけです。
検認をしなかったり、勝手に開封しても、遺言書が無効になるわけではありません。もっとも、無効なのでは?と疑われることになるので、検認や開封の手続きを行ってください。
なお、封のされた封筒に入っている自筆証書遺言を開封しても、封印されていないから過料にはならないと思われます。
検認の申立方法


なお、裁判所のサイト「遺言の検認」のページにも遺言書の検認について書かれていますので、必要であればご覧ください。
申し立てをしなければならない人
民法は、検認を申し立てなければならい人について、次のように定めています。
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
民法1004条1項
つまり、次の人は検認の申し立てをしなければなりません。
- 遺言書の保管者
- (保管者がいない場合)遺言書を見つけた相続人
申し立てる裁判所
検認の申し立てをする裁判所については、家事事件手続法は、次のように定めています。
遺言に関する審判事件(別表第一の百二の項から百八の項までの事項についての審判事件をいう。)は、相続を開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
家事事件手続法209条1項
つまり、遺言書の検認は、相続開始地を管轄する家庭裁判所に申し立てることになります。
では、相続開始地とはどこでしょうか?
民法は、相続開始地について、次のように定めています。
相続は、被相続人の住所において開始する。
民法883条
以上をまとめると、遺言書の検認は、遺言者の最後の住所地にある家庭裁判所となります。
裁判所のサイトの「裁判所の管轄区域」ページからお調べください。
申立てに必要なもの
申立てに必要なものは、次のとおりです。
- 申立書(1通)
- 遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本(各1通)
- 相続人の戸籍謄本(相続人が死亡している場合は出生から死亡まで。各1通)
- 800円分の収入印紙
- 84円切手(相続人の人数分)
申立書の書き方


遺言書の検認の申し立てに必要な申立書と当事者目録、その記入例は、裁判所のサイトにある「遺言書の検認の申立書」のページからダウンロードできます。
申立ての理由の書き方
申立ての理由以外の部分は、記入例を真似て記載してください。
ただし、申立ての理由は、そっくりそのままというわけにはいきません。裁判所の記入例は、次のようになっています。
1 申立人は,遺言者から,平成○年○月○日に遺言書を預かり,申立人の自宅金庫に保管していました。
2 遺言者は,令和○年○月○日に死亡しましたので,遺言書(封印されている)の検認を求めます。なお,相続人は別紙の相続人目録のとおりです。
裁判所作成の記入例(遺言書検認)
1についてですが、正確な年月日がわからない場合には、令和2年3月ころという感じでも問題ありません。また、保管していた場所は「自宅」程度でも問題ありません。
裁判所が用意している記入例は保管者が申し立てる場合の申立ての理由になります。それでは、保管者がいなくて、相続人が発見した場合はどのように書けばいいでしょうか? 記入例を参考として挙げておきます。
遺言者は、令和○年○月○日に死亡しました。令和○年○月△日、遺言者の家を片付けていたら、遺言書(封印されている)を発見しました。遺言書の検認を求めます。なお,相続人は別紙の相続人目録のとおりです。
開封・検認の手続
開封・検認の日程調整
申立人が預かっている遺言書がないと検認ができないため、申立人が来られる日に開封・検認が行われます。 そのため、開封・検認が行われる日は、遺言書を持っている申立人と裁判所で日程調整をして決めます。通常、申立て後1か月後あたりで日程調整されます。
開封は相続人の立ち会いが必要です。が、検認自体は不要です。しかし、実務では検認の場合も相続人の立ち会いを求めています。なお、相続人が欠席しても検認の手続は行われます。
開封・検認当日の流れ
検認当日の流れは、だいたい次のとおりです。
- 家庭裁判所の一室に参加者一同が集まります。
- 裁判官が申立人や相続人の目の前で、遺言書を確認します(封印されている場合は先に開封)。
- 出席者は、筆跡が遺言者のものか、印影(押された印の跡)が遺言者のものか質問されるので、YES、NO、わからないなどと答えます。回答内容は記録されます。
- 裁判所の書記官が、遺言書をコピーします。
- 特に何もなければ10分程度で終了します。
検認済み証明の発行
開封・検認後、裁判所に検認された証明を申請します。遺言書1通あたり150円の収入印紙が必要になります。
検認済み証明書がホッチキス留め&契印された遺言書が返却されます。開封された場合は封筒も一体になっています。
遺言書に従って、財産の名義変更などをするときに、検認済み証明書がついたこの遺言書を見せたり提出する必要があります。
おわりに
以上で、遺言書の検認・開封について、詳しく解説しました。検認・開封の手続き自体は、遺産分割などよりは簡易な手続きです。ですので、遺言書の保管者、遺言書を発見した相続人ご自身で検認の申し立てをすることができます。
ただし、この解説を読んでもよくわからなかった、仕事が忙しくて平日の昼間に家庭裁判所には行けないという方は、お気軽にご相談ください。
なお、遺言書の検認・開封の手続きについては、弁護士しか代理人にはなれませんのでご注意ください。