生前贈与と注意点

avatar
相談者
私たちには、知的障害のある子どもがいます。私たちがいなくなった後に、子どもが少しでも生活に困らないように、財産を残したいと思っています。
avatar
弁護士
障害のあるお子さんの親亡き後の備えですね。
avatar
相談者
はい、そうなんです。そこで、生前贈与というものを考えています。生前贈与をする上で、気をつけるべきことは何かありますか?
avatar
弁護士
では、生前贈与とはどういうもので、生前贈与をする際の注意点について解説します。

生前贈与とは?

生前贈与と死因贈与

そもそも生前贈与とは、なんでしょうか? 簡単にいうと、生きているうちに、財産をタダで与えることです。

単に「贈与」ではなく、なぜ「生前」とわざわざつけるのでしょうか? それは、死後に贈与する「死因贈与」と区別するためでしょう。もっとも、「死因贈与」といっても、生きている間に、贈与する取り決め自体はしないといけないことは、生前贈与と同じです。

贈与は契約

生前贈与、死因贈与のどちらにも共通している特徴は、財産をタダで与える人と、それを受け取る人との間で契約が必要になる点です。つまり、「この財産を与える」という意思と、「わかりました、もらいます」という意思がなければなりません。

なので、例えば、子どもが小さいときに、子ども名義の銀行口座を開設して、親がその口座に少しずつお金を貯めた場合、贈与として認められず、名義は子どものものであっても、親の財産とされてしまうことがあります。この点はご注意ください。

また、お子さんが重度の障害があり、自分の意思を明らかにできないような場合には、贈与契約を結ぶことがそもそもできないということもあります。

この点、遺言で財産を残す場合には、「この財産を与える」という意思があれば成立します。つまり、障害のあるお子さんに財産を残す方法として、贈与より遺言の方が適切という場合があります。

贈与税

贈与税と税率

生前贈与をする上で注意しなければならないのが、贈与税の存在です。贈与税は、相続税よりも税率が高くなります。例えば、1000万円を遺言で残した場合の相続税の税率は10%であるのに対して、贈与した場合の贈与税の税率は40%です。

贈与税の節税対策

もっとも、贈与税については、節税対策がいくつかありますので、それをうまく活用すれば、贈与税の支払額を減らすことができます。

生活費の援助は非課税

例えば、障害のあるお子さんがグループホームで共同生活、または一人暮らしをしていて、足りない生活費を親が援助した場合には、贈与税はかかりません。

もっとも、生活費の援助という名目で渡しているだけで、実際には預金していたという場合は、贈与税がかかることもありますのでご注意ください。

110万円以下は非課税

贈与税は、1月1日から12月31日までの1年間の贈与額が110万円以下であれば、かかりません。ですので、例えば、一度に1000万円を贈与すると贈与税がかかります。が、1年間で110万円以下であれば、合計金額が1000万円を超えても贈与税はかかりません。

相続時清算課税

相続時清算課税制度を利用することで、合計2500万円までは贈与税を支払わずに済みます。

60歳以上の親や祖父母から、20歳以上の子または孫に対して、贈与する場合に、相続時清算課税制度の適用する届出をすると、合計2500万円までであれば、贈与税はかかりません。ただし、2500万円を超えた部分には20%の贈与税がかかります。

そして、贈与した親や祖父母が亡くなったときに、遺産と相続時清算課税制度の後の贈与した財産の合計で、相続税を計算します。この合計額によっては、相続税がかからない場合もありますので、贈与税も相続税も支払わなくてすむ場合があります。

具体例

Aさんが息子のBさんに合計2000万円のお金を生前贈与をしました。その際に、相続時清算課税制度を利用することにしました。その後、Aさんが死亡して、遺産として1500万円の預貯金を残しました。相続人は妻Wさんと息子のBさんだけです。

この場合、相続税の計算は、2000万円 + 1500万円 = 3000万円を基準に考えます。相続人が2人なので、相続税の基礎控除は 3000万円 + 600万円 * 2 =4200万円となります。3000万円 < 4200万円なので、この場合は相続税はかかりません。

なお、遺産が2200万円を超える場合には、相続税がかかります。

この制度を利用すると、それ以後は、110万円までは非課税という節税対策は使えなくなりますので、この点はご注意ください。

avatar
弁護士
私が親から贈与を受けたときに、この制度を利用しました。去年、その親が亡くなりましたが、贈与税と相続税の両方ともかかりませんでした。

注意点・問題点

最後に、生前贈与をする際に、気をつけておきたい注意点について解説します。

相続時精算課税の届けは本人がする必要があること

相続時精算課税を利用したい場合、その届出をしなければならないことは、すでに説明しました。では、この届出は誰がするのでしょうか? それは贈与を受けたお子さんかお孫さんになります。

届出は電子申請や郵送でも可能です。しかし、贈与を受けたお子さんの障害の程度が重くて、本人には荷が重い場合は、届出ができないことになります。

もっとも、届出を税理士に依頼することはできます。ただ、障害のあるお子さんの意思が確認できない場合には、依頼しても断られることもあります。

土地建物の名義変更

贈与する対象が、お金ではなく、土地建物(不動産)の場合にも注意が必要です。土地建物を贈与したら、不動産登記簿上の名義を親御さんからお子さんに変更する必要があります。つまり、法務局で、不動産の所有権の移転を登記しなければなりません。

この移転登記自体は、司法書士に依頼することが一般的ですので、親御さんや障害のあるお子さんが法務局で手続きをする必要はありません。しかし、司法書士が代理人として登記手続きをする前提として、障害のあるお子さんからの依頼が必要となります。ここでも、障害の程度が重く、お子さんの意思が確認できない場合には、依頼しても断られることがあります。

avatar
弁護士
この二つの注意点・問題点は、障害のあるお子さんに成年後見人・保佐人・補助人が選任されていたら、回避することはできます。ただ、このためだけに、後見人等の選任を申し立てるのは、オススメしません。

終わりに

以上が、生前贈与の特徴とその注意点についての解説です。

生前贈与は、障害のあるお子さんの親亡き後に備えるための方法の一つです。しかし、贈与税を考えると、土地建物を生前贈与するメリットはさほどあるとは思えません。そして、親御さんが存命中に生活費以外のお金を贈与する必要があるかも疑問です。ですので、生前贈与ではなく、遺言、生命保険、信託ではダメなのかをしっかり検討することをオススメします。