フルタイムで働くことが難しい知的障害者や精神障害者にとって、障害年金が収入の柱になっているは多いです。そのため、障害年金をもらえるかどうか、障害等級が1級か2級かは非常に重要となります。

障害等級の認定は書類審査です。そのため、障害年金がもらえるかどうか、何級になるかどうかは、医師の診断書の内容にかかっているといって過言はありません。そこで、この記事では、知的障害や精神障害に関して、どのように障害等級が決まるのかということを、障害者の親兼弁護士が詳しく解説します。

障害年金の等級はどのようにして決まる?

国民年金法の規定

障害年金がもらえるかどうかは、障害年金の支給要件を満たす必要があります。支給要件の一つに「障害等級に該当する程度の障害の状態にあるとき」(国民年金法30条)というもがあります。

障害等級は、次のように、政令(国民年金法施行令)で定めるとあります。

障害等級は、障害の程度に応じて重度のものから一級及び二級とし、各級の障害の状態は、政令で定める。

国民年金法30条2項

国民年金施行令の規定

政令では、次のように、障害等級1級と2級を定めています(国民年金法施行令4条の6別表)。すぐにわかると思いますが、知的障害、発達障害を含む精神障害については、身体障害と比べて、明確なことは書かれていません。

障害等級1級
障害等級2級

障害認定基準

障害等級の認定について、国はさらに詳しい基準である「障害認定基準(全体版)」(障害認定基準分割版はこちら)というものを作っています。

この障害認定基準によると、精神障害の障害等級1級と2級は、次のとおりです(障害認定基準56ページ)。

  1. 日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
  2. 日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの

精神障害は種類がいろいろあるため、これだけではピンときません。

そこで、この障害認定基準では、精神の障害を6つに分けて、それぞれについて認定基準を明らかにしています(障害認定基準56ページ)。

  1. 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害
  2. 気分(感情)障害
  3. 症状性を含む器質性精神障害
  4. てんかん
  5. 知的障害
  6. 発達障害

知的障害と発達障害について、どのような基準となっているか紹介すると、次のとおりです。

障害の程度障害の状態
1級知的障害があり、食事や身のまわりのことを行うのに全面的な援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が不可能か著しく困難で あるため、日常生活が困難で常時援助を必要とするもの
2級知的障害があり、食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため、日常生活にあたって援助が必要なもの
知的障害(障害認定基準60ページ)
障害の程度障害の状態
1級発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、か つ、著しく不適応な行動がみられるため、日常生活への適応が困難で常 時援助を必要とするもの
2級発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、不適応な行動がみられるため、日常生活への適応にあたって援助が必要なもの
発達障害(障害認定基準61ページ)

この障害認定基準を見て、知的障害も発達障害も、常時援助が必要だと1級、常時ではないものの援助が必要だと2級ということがわかります。ただ、それぐらいしかよくわからないともいえます。

精神の障害に係る等級判定ガイドライン

ガイドラインが作られた理由

障害認定基準に基づいて、精神障害について障害等級の認定が行われていました。しかし、この認定基準が曖昧であるために、各都道府県で行われていた障害等級の認定の傾向に違いがあることが明らかになりました。

つまり、同じ程度の精神障害であっても、住む都道府県によって等級が違ったり、または等級がつかなかったりという地域格差があったようです。障害年金は法律によって定められている制度です。地方自治体の条例ではなく法律である以上、地域格差があってなりません。

そこで、この地域格差を是正するために、国は「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(以下「ガイドライン」とします)を2016年に作りました。

ガイドラインの実際

後ほど詳しく紹介しますが、このガイドラインに従うと、医師や専門家でなくても、障害年金の診断書の記載から、障害等級の目安というのがわかります。

では、この障害等級の目安というのは、障害等級の認定結果にどのよう程度影響を与えるでしょうか? ガイドラインができた翌年の2017年から2020年の日本年金機構のデータによると、「障害等級の目安 = 障害等級の認定結果」となったのは、全体の90%ということです(「障害年金の業務統計等について」11ページ)。このように、多くの場合は障害等級の目安と同じ結果になることがわかります。したがって、障害等級の認定において、このガイドラインが非常に重要となります。

障害等級の認定の流れ

ガイドラインによると、精神障害の障害等級は、次の2段階を経て認定されます(ガイドライン2ページ)。

  1. 診断書記載の「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」平均によって、障害等級の目安を参考にして
  2. 総合評価の際に考慮すべき要素の例」などを考慮して、専門的な判断に基づき、総合的に判定する(総合評価)

これから、障害等級の目安と総合評価について、ガイドラインがどのように定めているかを紹介します。

障害等級の目安

障害等級の目安は、次の二つの項目から導き出されます。

  1. 日常生活能力の判定
  2. 日常生活能力の程度

これら二つの項目は、障害年金(精神の障害用)の診断書の裏面に記載されます。

日常生活能力の判定

日常生活能力の判定は、「日常生活の7つの場面における制限度合いを、それぞれ具体的に評価するもの」(記載要領(精神の障害用)9ページ)です。7つの場面とは、次のとおりです。

  1. 適切な食事
  2. 身辺の清潔保持
  3. 金銭管理と買い物
  4. 通院と服薬(要・不要)
  5. 他人との意思伝達及び対人関係
  6. 身辺の安全保持及び危機対応
  7. 社会性

これら7つの場面について、次のような4段階で評価します。

  1. できる
  2. おおむねできるが、時には助言や指導を必要とする。
  3. 助言や指導があればできる
  4. 助言や指導をしてもできない・行わない

7つの場面それぞれにおいて、できるを1点、できない・行わないを4点として、平均点を計算します。この平均点が、日常生活能力の判定平均になります。

日常生活能力の程度

日常生活能力の程度とは、「「日常生活能力の判定」の7つの場面も含めた日常生活全 般における制限度合いを包括的に評価するもの」(記載要領(精神の障害用)9ページ)です。

日常生活能力の程度は、次のように(1)から(5)の5段階で評価されます。

  1. 知的・精神障害を認めるが、社会生活は普通にできる。
  2. 知的・精神障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には、援助が必要である。
  3. 知的・精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である。
  4. 知的・精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である。
  5. 知的・精神障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、常時の援助が必要である。

障害等級の目安の表

日常生活能力の判定平均と、日常生活能力の程度が、診断書の記載からわかれば、以下の表から、障害等級の目安がわかります。日常生活能力の判定平均が縦軸、日常生活能力の程度が横軸で、この二つが交わるところが、障害等級の目安となります。

例えば、日常生活能力の判定平均が4で、日常生活能力の程度が(5)であれば、障害等級の目安は1級となります。

判定平均\程度(5)(4)(3)(2)(1)
3.5以上1級1級または2級
3.0以上3.5未満1級または2級2級2級
2.5以上3.0未満2級2級または3級
2.0以上2.5未満2級2級または3級3級または3級非該当
1.5以上2.0未満3級3級または3級非該当
1.5未満3級非該当3級非該当
障害等級の目安

総合評価

総合評価は、診断書の記載から導き出された障害等級の目安の妥当性の確認をするとともに、目安では捉えられない障害特性に応じて考慮すべき要素を診断書を詳しく調べて、最終的な判定を行います(ガイドライン2ページ)。

ガイドラインは、総合評価の結果、障害等級の目安とは異なる判定結果になることは認めています。ただし、その場合には、合理的かつ明確な理由をもって判定するようにと述べています。このことから、簡単には障害等級の目安と異なる判定結果にはならないことがうかがわれます。

また、障害等級の目安が「1級または2級」のように複数ある場合には、総合評価の際にどちらになるかを慎重に検討することになります(ガイドライン2ページ)。

すでに述べたように、90パーセント以上が「障害等級の目安 = 実際に認定された障害等級」です。したがって、診断書が障害の実情に沿った適切なものであれば、総合評価は、障害等級の目安が複数ある場合に重要になると思われます。

総合評価の際に考慮すべき要素の例

総合評価の際に考慮すべき要素の例とは、診断書の記載項目のうち、次の5つの分野について、各分野で考慮すべき要素と具体例のことです。

  1. 現在の病状または状態像
  2. 療養状況
  3. 生活環境
  4. 就労状況
  5. その他

ここでは、すべての考慮すべき要素の例を紹介はできませんので、一部を紹介します。すべてを見たい人は、ガイドラインの6ページから10ページをご覧ください。なお、以下の表の「障害の種別」について、「共通事項」とあるのは、精神障害、知的障害、発達障害に共通する事項を意味します。

障害の種別考慮すべき要素具体的な内容例
知的障害知能指数を考慮する。ただし、知能指数のみに着眼することなく、日常生活の様々な場面における援助の必要度を考慮する。
発達障害知能指数が高くても日常生活能力が低い(特に対人関係や意思疎通を円滑に行うことができない)場合は、それを考慮する。
現在の病状または状態像
障害の種別考慮すべき要素具体的な内容例
精神障害在宅での療養状況を考慮する。在宅で、家族や重度訪問介護等から常時援助を受けて療養している場合は、1級又は2級の可能性を検討する。
知的障害・発達障害著しい不適応行動を伴う精神疾患が併存している場合は、その療養状況も考慮する。
療養状況
障害の種別考慮すべき要素具体的な内容例
共通事項家族等の日常生活上の援助や福祉サービスの有無を考慮する。独居であっても、日常的に家族等の援助や福祉サービスを受けることによって生活できている場合(現に家族等の援助や福祉サービスを受けていなくてお、その必要がある状態の場合も含む)は、それらの支援の状況(または必要性)を踏まえて、2級の可能性を検討する。
知的障害・発達障害在宅での援助の状況を考慮する。在宅で、家族や重度訪問介護等から常時個別の援助を受けている場合は、1級または2級の可能性を検討する。
生活環境
障害の種別考慮すべき要素具体的な内容例
知的障害仕事場での意思疎通の状況を考慮する。一般企業で就労している場合(障害者雇用制度による就労を含む)でも、他の従業員との意思疎通が困難で、かつ不適切な行動がみられることなどにより、常時の管理・指導が必要な場合は、2級を検討する。
発達障害執着が強く、臨機応変な対応が困難である等により常時の管理・指導が必要な場合は、それを考慮する。一般企業で就労している場合(障害者雇用制度による就労を含む)でも、執着が強く、臨機応変な対応が困難であることなどにより、常時の管理・指導が必要な場合は、2級を検討する。
就労状況
障害の種別考慮すべき要素具体的な内容例
知的障害療育手帳の有無や区分を考慮する。療育手帳の判定区分が中度以上(知能指数がおおむね50以下)の場合は、1級又は2級の可能性を検討する。それより軽度の判定区分である場合は、不適応行動等により日常生活に著しい制限が認められる場合は、2級の可能性を検討する。
発達障害知的障害を伴う発達障害の場合、発達障害の症状も勘案して療育手帳を考慮する。療育手帳の判定区分が中度より軽い場合は、発達障害の症状により日常生活に著しい制限が認められれば、1級または2級の可能性を検討する。
その他

診断書の作成を依頼する前に

自分たちで障害等級の目安を出してみる

最後に、障害年金の診断書の作成を主治医に依頼する前に、しておいた方がいいことについて紹介します。それは、主治医に診断書を書いてもらう前に、診断書、ガイドライン、記載要領をよく読み、自分たちで、日常生活能力の判定平均と日常生活能力の程度を判断し、障害等級の目安を出してみることです。

日常生活能力の判定について判断する際に、問題となるのは、「できる」から「できない・行わない」までの4段階についてどれに当たるのかだと思います。記載要領8ページから12ページに、以下のような具体的な例が記載されているので、それらを参考にしてください。

また、日常生活能力の程度についても、記載要領13・14ページに、具体的な例や違いが記載されているので、日常生活能力の程度を自己判断する際に参考になります。

1できる金銭を独力で適切に管理し、1か月程度のやりくりが自分でできる。また、一人で自主的に計画的な買い物ができる。
2おおむねできるが、時には助言や指導を必要とする一週間程度のやりくりはだいたい自分でできるが、時に収入を超える出費をしてしまうため、時として助言や指導を必要とする。
3助言や指導があればできる一人では金銭の管理は難しいため、3〜4日に一度手渡しして買い物に付き合うなど、経常的な援助を必要とする。
4助言や指導をしてもできない・行わない持っているお金をすぐに使ってしまうなど、金銭の管理が自分ではできない、あるいは行おうとしない。
金銭管理と買い物
1できる社会生活に必要な手続き(例えば、行政機関の各種届出や銀行での金銭の出し入れ等)や公共施設・交通機関の利用にあたって、基本的なルール(常識化された約束事や手順)を理解し、周囲の状況に合わせて適切に行動できる。
2おおむねできるが、時には助言や指導を必要とする社会生活に必要な手続きや公共施設・交通機関の利用について、習慣化されたものであれば、各々の目的や基本的なルール、周囲の状況に合わせた行動がおおむねできる。だが、急にルールが変わったりすると、適正に対応することができない。
3助言や指導があればできる社会生活に必要な手続きや公共施設・交通機関の利用にあたって、各々の目的や基本的なルールの理解が不十分であり、経常的な助言や指導がなければ、ルールを守り、周囲の状況に合わせた行動はできない。
4助言や指導をしてもできない・行わない社会生活に必要な手続きや公共施設・交通機関の利用にあたって、その目的や基本的なルールを理解できない、あるいはしようとしない。そのため、助言・指導などの支援をしても、適切な行動ができない、あるいはしようとしない。
社会性

自己判断の根拠となったエピソードの確認

障害等級の目安を自分たちで出す過程で重要なのは、日常生活能力の判定や日常生活能力の程度を判断する際に根拠となったエピソードを意識することです。

主治医の診断書の記載内容と、障害者やその家族、支援者との間で齟齬が生じる理由の一つは、主治医に対して、十分な情報を提供していないことにあると考えられます。障害者その家族などにとっては、当たり前のエピソードであっても、主治医には伝えていないということは十分にあり得ます。仮に伝えていたとしてもカルテなどに記載されいなければ、診断書の作成のときに、参照されません。

障害等級の目安を自己判断したときに根拠となったエピソードを確認してまとめておけば、診断書の作成を主治医に依頼する前に十分伝えることもできますし、診断書と一緒に参考資料として主治医に渡すこともできます。

特に、障害等級の目安が複数ある場合や、非該当になる可能性がある場合には、このように万全な準備をしてから、診断書の作成に臨んだ方が、後悔がなくていいと思います。