障害者扶養共済は多くのメリットがあり、障害者の親亡き後の備え魅力的です。しかし、掛金に関して3つのデメリットがあります。障害者扶養共済への加入前には、この3つのデメリットはしっかり理解してください。

障害者扶養共済とは?

(心身)障害者扶養共済とは、障害者の親亡き後に備えるための公的制度です。障害者の親亡き後の備えのための公的制度としては、唯一のものだと思います。

障害者の保護者が、原則20年間掛け金を支払うと、親亡き後から障害者が亡くなるまで、月額2万円または 4万円が支給される公的な年金です。年金というため、障害基礎年金とごっちゃにしてしまう人がたまにいますが、年金といっても、障害者扶養共済と障害基礎年金は別の制度ですので、ご注意ください。

障害者扶養共済は、全国の都道府県と政令指定都市の条例で定められています。日本国内であれば、どこに住んでいても利用できる制度なのに、国の制度ではないのはよく理由はわかりません。

障害者扶養共済のメリットとして、次の6つがあります。

  1. 公的制度で安心
  2. 一生涯の保障
  3. 掛金が安い
  4. 掛金全額が所得控除の対象で、節税効果あり
  5. 生活保護において収入として扱われない
  6. 年金全額が非課税

デメリット1 実質的に掛け捨ての生命保険

障害者扶養共済は、途中で解約した場合、それまでに支払った掛金のうち、ほんのわずかしか戻ってきません。つまり、実質的に掛け捨ての生命保険にあたります。この点が、障害者扶養共済の最大のデメリットです。

障害者扶養共済への加入を検討している方は、このデメリットを理解したうえで、納得してから加入の申し込みをしてください。

解約した場合などに戻ってくるお金

脱退一時金

障害者扶養共済のデメリットについて、もう少し詳しく見ていきましょう。掛金の支払いが困難になって障害者扶養共済を解約すると、脱退一時金が支払われます。

脱退一時金の金額は、障害者扶養共済に加入していた年数にやって、次の表のとおり3段階あります。

加入期間脱退一時金額
5年以上10年未満75,000円
10年以上20年未満125,000円
20年以上250,000円
脱退一時金額の一覧(2019年4月1日現在)

仮に、掛金(月額)が15,000円だとすると、5年間の掛金の総額は90万円となります。75,000円は約8%ですので、92%は戻らないことになります。20年間の場合は総額が360万円で250,000円は約7%となります。

弔慰金

解約の他に、加入者である親や保護者より先に障害児者が亡くなった場合も、支払った掛金の多くは戻ってきません。弔慰金としてわずかばかり戻ってくるだけです。

弔慰金の金額は、障害者扶養共済に加入していた年数にやって、次の表のとおり3段階あります。

加入期間弔慰金額
1年以上5年未満50,000円
5年以上20年未満125,000円
20年以上250,000円
弔慰金額の一覧(2019年4月1日現在)

掛金の減額・免除

以上のように、一度、障害者扶養共済に加入すると、少なくとも20年間は掛金を支払い続けなければなりません。

ただし、障害者扶養共済は公的な制度なので、収入が少ない人、少なくなった人に対しては、掛金が減ったり、0円になる減額・免除の制度があります。

減免の割合は、地方自治体によって違いますが、収入の程度によって、掛金がゼロになる場合から、少なくても2、30%引きになります。

特児を掛金の原資

民間の貯蓄型の生命保険であれば、元本割れがあるにしても、障害者扶養共済よりは多くの支払済みの保険料を回収することができます。加入者がなんらかの理由で収入が減ったときに、生命保険を解約し、減った収入を補うことができます。しかし、障害者扶養共済は、掛金分の支出は減りますが、収入の減少を補うことはできません。

このようなリスクへの対策として、障害者扶養共済の掛金を、特別児童扶養手当から支払うことが考えられます。

特別児童扶養手当の支給額は、2級であっても、加入者が50歳以下であれば、障害者扶養共済の掛金二口分より多いです。

また、知的障害のあるお子さんがいる場合、3歳から20歳までの17年間特別児童扶養手当をもらえるので、障害者扶養共済の掛金を多くを特別児童扶養手当でまかなえることができます。

仮に、解約したり、障害のある子どもが加入者より先に亡くなったりしても、掛金の大部分を、加入者が汗水流して稼いだお金ではなく、公的な手当でまかなったのであれば、損をしたという意識が薄くなるのではないかと思います。

保険料引き上げのリスク

障害者扶養共済は公的な制度ですので、民間の保険商品とは異なり、内容を変更するのは簡単ではありません。しかし、障害者扶養共済は、以下のように何度か改正が行われました。

  1. 1979(昭和54)年10月
  2. 1986(昭和61)年4月
  3. 1996(平成8)年1月
  4. 2008(平成20)年4月

1996年の第3次改正と2008年の第4次改正において、掛金(保険料)額の改定が行われました。なお、現在の掛金額は2008年の改訂された金額です。

引き上げ幅は、1996年の第3次改正で2倍から2.5倍で、2008年の第4次改正では、1.8倍から2.7倍となっています。

加入時年齢旧掛金額現行掛金額引き上げ幅
35歳未満3,500円9,300円2.7倍
35歳以上~40歳未満4,500円11,400円2.5倍
40歳以上~45歳未満6,000円14,300円2.4倍
45歳以上~50歳未満7,400円17,300円2.3倍
50歳以上~55歳未満8,900円18,800円2.1倍
55歳以上~60歳未満10,800円20,700円1.9倍
60歳以上~65歳未満13,300円23,300円1.8倍
第4次改正における掛金額の引き上げ内容

もっとも、この引き上げ幅は、新規の加入者の掛金月額の引き上げ幅です。2008年の第4次改正における、既存の加入者の掛金月額の引き上げ幅は、1.1倍から1.6倍でした。

障害者扶養共済は、今まで約10年間隔で制度が改正されてきました。2008年以降、改正が行われていないため、数年中に改正されて、掛金額が引き上げられるリスクはあります。

障害者扶養共済は実質的には掛け捨ての生命保険ですので、掛金額が引き上げられても、損失が生じるため、おいそれと解約・脱退をすることはできません。

デメリット3 掛金総額 > 年金総額 となるリスク

途中解約すると掛金のほとんどが戻ってこないデメリットの他に、加入者が長生きしたり、障害のある方が長生きしなかった場合に、掛金総額より年金総額が少なくなるリスクがあります。

どういうことかというと、例えば、44歳で障害者扶養共済に一口加入した場合、支払う掛金の総額は、約360万円です。障害者扶養共済の年金は一口で月2万円ですので、障害者扶養共済の年金が支給されてから180か月=15年間もらえれば、掛金総額=年金総額となります。

つまり、障害者の親亡き後(親が亡くなってから障害のある子も亡くなるまで)の期間によっては、掛金総額 < 年金総額となり得する場合もあれば、掛金総額 > 年金総額となり損するリスクもあります。

障害者扶養共済の掛金額が、免除されるまでに引き上げられると、掛金総額 < 年金総額になる期間は長くなります。

ただ、このリスクは、一つ目のデメリットよりは不利益の程度は低いと私は考えます。障害者扶養共済は、障害者の親亡き後の所得を補う目的の制度です。親亡き後の期間が短かったとしても、この目的は達成されているからです。

私は、うちの障害のある子どもが、私が亡くなった後に将来生活保護を受けることになっても、障害者扶養共済からの月4万円の年金は支給されます。その4万円で、子どもが好きなフルーツを遠慮なく食べることができれば、それだけでも障害者扶養共済に加入してよかったと思うはずです。私は障害者扶養共済をお得な資産形成とは捉えていません。ですので、仮に、掛金総額 > 年金総額であったとしても、加入したことに後悔はしないと思います(私は亡くなっている可能性大なので後悔はできませんが)。

また、障害者扶養共済がお得であったか損したかは、障害者扶養共済の年金を受け取る障害のある子どもが亡くなったときにしか判明しません。判明する時点では、加入者である親や保護者も、障害者自身も亡くなっています。障害者扶養共済に加入して損した結果が判明したとして、誰が困るのでしょうか。

障害者扶養共済がおすすめな人

以上のように、(心身)障害者扶養共済は、次の3つのデメリットがあります。

  1. 実質的に掛け捨ての生命保険で、途中解約などでほとんど掛金の払い戻しは受けられません
  2. 掛金額が引き上げられて、支払総額が増えるリスク
  3. 支給される年金総額が、掛金の総額よりも少なくなる可能性があります

この3つのデメリットを踏まえた上でも、メリットの方が大きい、また、免除されるまで掛金を支払うことができると判断された場合には、(心身)障害者扶養共済(しょうがい共済)に加入を検討してください。

最後に、障害者扶養共済の加入を前向きに検討してもいい人にどういう人がいるかを、私の考えを示します。

  1. 保護者の年齢は44歳以下(せいぜい50歳未満)で、掛金総額が比較的少ない人
  2. 所得が多く、所得税・住民税の節税効果が高い人
  3. 生活保護受給世帯、住民税非課税世帯で、掛金が免除または大幅に減額される人

障害者扶養共済をより詳しく知りたい方へ

障害者扶養共済について十分に理解できましたか? この記事だけで十分理解できたという方は少ないと思います。障害者扶養共済の加入を検討するうえで重要な情報はインターネットだけでは得られません。また、障害者扶養共済を解説する書籍もないのが現状です。

そこで、誰も障害者扶養共済の解説書を書かないのであれば、私の方で一般向けの解説書(電子書籍)を書きました。Amazonで「障害者扶養共済」というタイトルで販売中ですので、障害者扶養共済の加入を検討していてより詳しく知りたい方は、ご購入をご検討ください。

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