はじめに

障害者の親亡き後の備えとして、生命保険について解説します。具体的には、生命保険にはどんなメリットとデメリットがあるか、デメリットを回避する方法についてです。

この記事を読んだら、読者のご家庭にとって、親亡き後の備えとして、生命保険が適しているかどうかが分かります。

障害者の親亡き後の備えについて関心がある人は最後までご覧になってください。

終身の死亡保険

この記事で取り上げる生命保険は、いわゆる貯蓄型の生命保険で、死亡保険金が支払われる終身の死亡保険です。

生命保険には、万が一に備える定期保険というものがあります。掛け捨ての生命保険で、被保険者が万が一死亡した場合に、支払った保険料の何倍もの死亡保険金が支払われるものです。しかし、定期保険は家族を養っている働き盛りの人が入るもので、終身で入るものでありません。

メリットその1

障害者の親亡き後の備えとして、終身の死亡保険の最大のメリットは、障害のある子どもに、決まった金額をほぼ確実に残せるということです。

どういうことかというと、終身の死亡保険は、被保険者が亡くなったら、死亡保険金の受取人として指定した人が、死亡保険金を受け取ることができます。死亡保険金は、保険金受取人の固有の権利であって、誰も奪うことはできません。確実に残せるというのは、こういうことです。

このメリットが活かされるのは、障害者の他に、健常者の子どももいるような家庭です。他方、障害のある子どもが一人っ子の場合には、このメリットはあまり意味がありません。

メリットその2

では、一人っ子の障害者の場合は、生命保険が意味ないかというとそんなことはありません。生命保険には別のメリットがあります。それは、死亡保険金を分割して受け取ることができることです。

死亡保険金を一括で受け取ると大金の管理をしなければなりません。一気に大金が入って気をよくして浪費してしまうこともあります。また、知的障害者が1500万円を騙し取られたというニュースが最近ありましたが、このように騙し取られるかもしれません。分割受取であれば、一括よりは安心です。

もっとも、障害者が成年後見制度を利用していたら、お金の管理についてはあまり心配しなくていいので、この分割受け取りというメリットの魅力は半減してしまいますが。

デメリット

次に、生命保険のデメリットをお話しします。一番のデメリットは、死亡保険金の受け取り手続きは、受取人である障害者自身で行わないといけないことです。

生命保険金の受取りの手続きは、健常者からしたら大したことではないです。戸籍謄本、住民票、死亡診断書などを用意して、生命保険会社に請求すればいいだけです。

この死亡保険金の請求手続きが、まわりの支援者などのサポートがあればできる障害者であれば問題ないです。しかし、サポートがあっても無理だという場合には、成年後見制度を利用しなければならなくなります。

なので、障害者の親亡き後の備えとして、生命保険を検討している方は、障害のある子供が、サポートがあれば、生命保険金の請求手続きができるかどうか、見極めてください。

回避策その1

では、重度の障害で、生命保険金の請求手続きができない場合、成年後見制度を利用するしかないかというと、そんなことはありません。

公的な終身の死亡保険である「障害者扶養共済」は、「年金管理者」を指定しておくと、年金管理者が、障害者扶養共済の共済金(生命保険金)を請求し、受け取ることができます。

年金管理者は、家族ではなくてもなれますので、一人っ子の障害者であっても支援者を年金管理者にすることで、成年後見制度を利用しなくてもなんとかなります。

回避策その2

また、生命保険信託を利用するという方法もあります。生命保険信託とは、生命保険金を、信託銀行や信託会社に信託するものです。生命保険信託を利用すれば信託銀行や信託会社が、生命保険会社に死亡保険金を請求します。信託銀行などは、生命保険信託を契約したときに決められたとおりに、死亡保険金から障害のある子どもに支払います。

生命保険信託は、信託銀行などに信託報酬を支払う必要がありま。が、死亡保険金の請求や、障害のある子どもへの支払いをすべてしてもらえるので安心です。また、障害のある子どもにどのように渡してもらうかも、親がある程度柔軟に決めることもメリットです。例えば、月々10万円を渡しつつ、臨時出費が必要なときには、それにも対応してもらうこともできます。

ただし、将来的に、障害のある子どもに対して成年後見制度の利用を考えている場合は、お金の管理は成年後見人などにしてもらうので、生命保険信託にする必要はあまりないです。

以上が、障害者の親亡き後の備えとして、生命保険を利用するメリット、デメリット、デメリットを回避する方法について解説しました。

まとめ

この記事では、次の3つを紹介しました。

  1. 一般の死亡保険
  2. 公的な死亡保険である障害者扶養共済
  3. 信託と組み合わせた生命保険信託

最後に、障害のある子どものタイプによって、どの生命保険が適しているか、私の考えを述べます。

家族や支援者のサポートがあれば、本人で死亡保険金の請求ができる人の場合は、3つのどの生命保険でも特に問題はありません。

しかし、自分で手続きはできるけど、一度に死亡保険金を渡してしまうのは心配という場合には、障害者扶養共済か生命保険信託がいいです。一般の死亡保険も分割受取は可能ですが、一時金払いか、分割受取(年金払い)かは、死亡保険金を請求する側で決めることなので、本人が一時金を選んでしまうことを防ぐことはできません。

サポートがあっても死亡保険金の請求ができない場合には、障害者扶養共済か生命保険信託になります。年金管理者をお願いできる人がいない場合には、生命保険信託になります。

もっとも、障害のある子どもが成年後見制度を利用している場合には、成年後見人などが死亡保険金を請求し、管理してくれるので、どの生命保険でも問題ありません。ただ、生命保険信託は信託報酬の支払いがあるので、割高になるでしょう。

うちの子の場合は、一人っ子で、将来的に親が生きているうちに成年後見制度を利用する予定なので、親亡き後の備えとして生命保険を利用する必要は特にありません。が、障害者扶養共済は、一般の死亡保険や生命保険信託にはない魅力的なメリットがあるので、障害者扶養共済には加入しています。