親族は成年後見人になれない!?

親族が成年後見人になりたくても司法書士や弁護士などの専門職が選任されることが多い。このようなことって結構いろんなところで言われています。

例えば、2022年9月15日に配信された共同通信の記事では、次のように書かれています。

成年後見は本人や家族らが利用開始を家裁に申し立て、家裁が後見人を選ぶ。家族が「自分や他の家族を後見人にしてほしい」と思っていても、弁護士や司法書士、社会福祉士といった専門職が選ばれることも多い。

「使い始めたら死ぬまでやめられない」成年後見制度は変われるか  利用者家族「だまされた」20年たってようやく民法改正の動き

共同通信という有名なメディアに、こう書かれると本当だと思いますよね。しかし、実はこの情報は間違っています。最高裁判所のデータを見る限り、親族が成年後見人になりたいといえば、多くの場合、親族後見人になることができます。

この点について、この記事で詳しく解説していきます。

親族が望めば後見人になれること

最高裁判所のデータの紹介

最初に、最高裁判所のデータを紹介します。最高裁判所は成年後見制度の利用について毎年データを公表しています(成年後見関係事件の概況)。

成年後見人・保佐人・補助人と障害者本人の関係について、2021年のデータを見ると、親族が後見人などになったのは全体の約2割です。親族が2割という数字を見たら、8割は親族以外ということになるので、やっぱり親族は後見人などになれないと思うかもしれません。

成年後見人等と本人との関係別件数・割合

しかし、これはあまりにも表面的なデータの見方です。というか、最高裁判所が公表したデータをちゃんと読んでいたら、そのような結論にはなりません。

最高裁判所は、わざわざ参考資料として成年後見人などの候補者についてのデータをすぐ隣に載せています。それによると、親族が成年後見人などの候補者になっているのは、全体の24%に過ぎません。

成年後見人などになりたい人は、自分を成年後見人にしてくださいと候補者として手を挙げることができます。
つまり、候補者として手を挙げた親族は全体の24%しかいません。

家庭裁判所は、成年後見人などになりたいと手を挙げていない人を成年後見人などに選任することは、まずありません。やりたくない人に無理矢理やらせることはできませんし、後見人としての職務をちゃんとこなしてくれるとは思えないからです。

親族後見人の選任率は高い

親族の24%しか候補者として手を挙げないのですから、全員が成年後見人などになるとしても、最大で24%しか成年後見人などにはならないことになります。

逆に、24%のうち20%の親族が成年後見人などに選任されていることになるので、選任率は高いといえます。なお、20%の母数と24%の母数は実際には同じではありません。

親族が成年後見人になりたくても、専門職が選任されることが多いという情報は、最高裁判所のデータに反して
誤りということになります。

共同通信の記者は、最高裁判所のデータをちゃんと読んだのでしょうか。おそらくちゃんと読みもしないで記事を書いているだと思います。

親族が成年後見人になれないケース

これで終わりにしてもいいのですが、親族が後見人になりたいと手を挙げてなれないケースがあることが、最高裁判所のデータからもわかります。では、どのような場合に、親族が成年後見人などになれないかについて次にお話しします。

東京家庭裁判所は、親族の候補者が選任されなかった主な事例を公表しています。

親族候補者が選任されなかった主な事例としては,親族間に意見の対立があるケース, ご本人が親族候補者の選任に反対しているケース,候補者がご本人の財産を投資等により 運用する目的で申立てをしているようなケース,候補者が健康上の問題や多忙などのため 適正な後見事務を行い得ないと判断されるケースなどがあります。

後見センターレポートvol.21(令和2年1月)
  1. 親族間に意見の対立があるケース
  2. ご本人が親族候補者の選任に反対しているケース
  3. 候補者がご本人の財産を投資等により運用する目的で申し立てをしているようなケース
  4. 候補者が健康上の問題や多忙などのため適正な後見事務を行い得ないと判断されるケース

1以外のケースは、そりゃ選任されないだろうなと納得できるものです。

1のケースは、補足説明をします。親族間で意見の対立がある場合、対立している一方が成年後見人などになると、当然他方の対立している親族は、その成年後見人などに協力しないと考えられます。このような場合は、第三者が成年後見人などになる方が望ましいといえます。

これら4つのようなケースでなければ、親族の候補者が成年後見人などに選ばれることになります。実際に、東京家庭裁判所は、次のように明言しています。

親族が後見人候補者とされているケースで、その候補者が選任されない案件の方が、むしろケースとしては、少数です。

後見センターレポートvol.21(令和2年1月)

親族が成年後見人の候補者になる方法

では最後に、親族が成年後見人になりたい場合、どうすればいいかについて簡単に紹介します。これまでの解説からもわかるように、成年後見制度の利用の申し立てをする際に、成年後見人などの候補者として手を挙げるだけです。

具体的には、「後見人等候補者事情説明書」という文書を作成して、申立の際に他の書類と一緒に提出します。この事情説明書は、各地域の家庭裁判所のホームページからダウンロードできますので、興味がある方はご覧になってください。

東京家庭裁判所を例に、どのようなことを記載するかを紹介します。

  1. 候補者の氏名、住所、職業、勤務先
  2. 同居者の氏名・年齢・続柄
  3. 収入、資産、負債(借金)の内訳
  4. 健康状態
  5. 最終学歴や職歴
  6. 本人と同居しているか
  7. 本人と家計は同一かどうか
  8. 別居している場合は面会頻度
  9. 本人への介護や援助内容
  10. 本人とのお金のやり取り
  11. 候補者になった経緯や事情
  12. 本人のサポートついての方針や計画
  13. 成年後見人の選任や役割への理解

これらのことを事情説明書に記載します。

ちなみに、専門職が候補者になる場合は書く分量はもっと少ないです。

まとめ

最後に、まとめとして強調しますが、親御さん、お子さん、きょうだいなどの親族が成年後見人になりたいと家庭裁判所に手を挙げれば、多くの場合、親族が成年後見人に選ばれます。

誤った情報が流れるわけ

親族が望んでも専門職が成年後見人などに選ばれるのが多い、という誤った情報を発信している人は、

  • 成年後見制度の実務を知らない人
  • 最高裁判所の統計データをちゃんと見ていないテキトーな人
  • 任意後見や信託など他のサービスを売りたい人

こういう人である可能性がありますので、十分に気をつけてください。

私も障害者家族の一人ですので、同じような立場の皆さんが、誤った情報に基づいて誤った判断をしないですむように、情報を発信していきます。今後もこのサイトを応援していただけると嬉しいです。

最後までご覧いただき、ありがとうございます。

動画で解説

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親族が望んでいるのに成年後見人になれないのはレアケース