障害のある家族について成年後見制度を利用したいと思っていても、成年後見人の報酬・費用の支払いを考えると、ためらってしまっていませんか。

市町村が成年後見制度の利用に必要な費用を肩代わりする制度があることをご存知ですか。国は、成年後見制度の利用を促進するために、2012年から、この肩代わりの制度(成年後見制度利用支援事業)をスタートしました。成年後見制度利用支援事業について、弁護士ができるだけわかりやすく解説します。

成年後見制度の利用に必要な費用の現状

成年後見制度利用支援事業の中身の説明に入る前に、成年後見制度を利用するうえで、どのくらいの費用がかかるかを、まず説明します。

成年後見制度の利用に必要な費用は、次のとおり大きく2つに分けられます。

  1. 成年後見制度の申立費用
  2. 本人の財産から成年後見人などに支払う報酬

それぞれの費用のおおよその金額は、次のとおりです。

  1. 1万円未満(医師による鑑定がない場合)
  2. 最低でも月1・2万円

1.の申立費用は、原則として支払うのは一度きりなので、そこまで高額とはいえません。しかし、成年後見人などの費用は、本人が亡くなるまで、支払われるためバカにならない金額です。

本人が認知症高齢者の場合は、成年後見制度を利用する期間は比較的短期間です。しかし、高齢者ではない知的障害者や精神障害者の場合は、本人が亡くなるまで10年、20年と利用することになるので、数百万円の報酬を支払うことになります。

収入や貯蓄が少ない知的障害者にとって、成年後見人などの報酬を支払えるかわからないため、成年後見制度の利用をためらうことは、十分に理由のあることです。

成年後見制度利用支援事業

このような理由などもあり、成年後見制度の利用が低調気味であったため、国は、障害福祉の中心的な法律である障害者総合支援法で、成年後見制度の利用に必要な費用を補助・支給する制度である「成年後見制度利用支援事業」(法77条1項4号)を作りました。

この成年後見制度利用支援事業は、市町村の地域生活支援事業の必須事業です。したがって、市町村は、この事業を実施しなければなりません。

ただし、注意しなければならない点があります。地域生活支援事業は具体的な事業の内容をどのように定めるかは、市町村に裁量があります。そのため、成年後見制度利用支援事業という名前であっても、市町村で内容が微妙に異なることです。

支給の対象となる費用

成年後見制度利用支援事業において、支給の対象となっている費用は、大きくわけて次の4つになります(規則65条の10の2)。

  1. 法定後見(成年後見、保佐、補助)の申立費用
  2. 法定後見の登記費用
  3. 成年後見人、保佐人、補助人、それぞれの監督人の報酬
  4. 1.から3.以外で、市町村が支給することが適当と認めたもの

支給対象となる費用について、気をつけなければならないのは、任意後見が対象となっていないことです。今後、任意後見の費用まで対象が拡大することはあるかもしれません。ただし、2022年4月時点では、対象となっていません。

なお、法定後見の申立ての代理を弁護士に依頼することができます。当たり前ですが、その費用も対象外です。

支給の要件

ここまでは、障害者総合支援法という法律で、成年後見制度利用支援事業をどのように定めているかの説明です。法律の規定ですので、お住まいの地域に関わらず、同じです。これからは、市町村の成年後見制度利用支援事業の具体的な内容の解説に進みます。

成年後見制度利用支援事業の具体的な内容は、市町村によって異なります。ここでは、神奈川県川崎市と大分県大分市の成年後見制度利用支援事業を取り上げます。厚生労働省の「成年後見制度利用促進施策に係る取組状況調査結果」によると、2017年度の実績で、障害者関係の報酬助成の申立件数が最多の都道府県が神奈川県で、最少の都道府県が大分県でした。そこで、この両県の代表的な市町村である川崎市と大分県をピックアップしました。

これ以降の説明は、川崎市成年後見制度利用支援事業実施要綱大分市成年後見人等報酬助成事業実施要綱に基づきます。なお、金額が大きく家計に直結する成年後見人等の報酬の助成に限定して紹介します。

成年後見人等が近親者でないこと

川崎市と大分市で共通している点として、成年後見人等が近親者などである場合には、報酬助成は受けられません

ただし、近親者の範囲は両市で異なります。川崎市は成年後見人等が本人の直系血族や兄弟姉妹、市民後見人である場合は助成の対象外としています。それに対して、大分市は本人の4親等内の親族(例えば、いとこ)まで対象外としています。

生活保護の受給者

川崎市と大分市で共通している対象者は、生活保護の受給者です。生活保護の受給者が報酬助成を受けられるのは、全国どこでも同じだと思います。

住民税非課税世帯

生活保護の受給者以外の対象者については、川崎市と大分市では異なります。

川崎市は、次の3つの要件に該当する人も報酬助成の対象としています。

  1. 本人と、本人と生計を同じくする世帯員全員が市民税非課税であること
  2. 本人の現預金などの合計額が、成年後見人などの報酬額(年額)プラス30万円を下回ること
  3. 自宅や日常生活に必要な資産以外がないこと

要するに、収入や財産がない住民税非課税の世帯ということになります。住民税非課税世帯も報酬助成の対象とする市町村は多いです。

大分市は、住民税非課税世帯という要件は明確にありません。ただ、生活保護受給者とそれに準ずる人以外に市長が特に必要と認める者も報酬助成の対象となっていますので、住民税非課税世帯が含まれているかもしれません。

現預金が一定金額以下であること

本人の現預金などの合計額が一定額以下の場合に、報酬助成の対象外とする市町村は少なくありません。川崎市と大分市も現預金などの合計額を報酬助成の要件としています。

ただし、現預金などの流動資産の基準は、川崎市と大分市では異なります。大分市は、単身世帯であれば50万円未満で、複数世帯の場合は100万円未満となっています。

ここで問題となるのは、川崎市の要件は本人の預貯金などの合計額を基準としていますが、大分市では本人以外の現預金などの流動資産も含めているところです。川崎市の場合は、本人と同居している家族の収入が住民税非課税レベルであれば、家族の預貯金などの合計額は問われません。他方、大分市の場合は、本人と同居する家族の現預金などの合計額によっては、報酬助成が受けられません。

市長申立て限定

報酬助成の対象者を、市長申立てによって成年後見人などが選任された場合に限定する市町村があります。

市長申立てとは、さまざまな事情で、本人やその親族が成年後見制度の利用申立てができない場合に、本人が住んでいる市町村の長の名前で利用申立てをすることです。最高裁判所の2021年のデータ(成年後見関係事件の概況―令和3年1月~12月―)によると、成年後見制度の利用申立てのうち、市町村長が申し立てている割合が約23.3%で最も多いそうです。

今回紹介した大分市は、2022年3月以前は市長申立てに限定していました。しかし、2022年4月から限定をなくしました

大分市は限定がなくなりましたが、市長申立て限定の市町村はまだ存在すると思いますので、この点はご注意ください。

支給の上限額

報酬醸成の支給額の上限(月額)は、川崎市と大分市では、基本的には同じで、次のとおりです。

  • 在宅 2万8000円
  • 施設等利用者 1万8000円

施設等とは、川崎市は明確にしていて、障害者支援施設、障害者グループホーム、老人ホームなどの老人福祉施設、病院などです。川崎市は障害者グループホームを含めています。大分市は不明です。

この額は上限額ですので、家庭裁判所が決定した報酬額(月額に換算した金額)の方が、この上限額を下回る場合には、家庭裁判所が決定した報酬額になります。成年後見制度利用支援事業の報酬助成を利用できる人は収入と資産が少ない人ですので、在宅の場合は上限額に達することは、あまりないでしょう。

まとめ

以上が、成年後見人などの報酬を市町村が肩代わりしてくれる成年後見制度利用支援事業の解説です。家族と同居していることが多い知的障害者でも、この制度を利用できます。ただし、同居している家族が成年後見人などに選任されたり、または、同居している家族に収入や資産があったりすると、この制度を利用することはできませんので、ご注意ください。

知的障害者が親元を離れて自立している場合、多くの方はこの成年後見制度利用支援事業が使えるはずです。成年後見人などは、障害者の家族が担っていた役割の一部しか担えません。したがって、成年後見人などに多くのことは期待できません。しかし、成年後見人などの報酬を市町村が肩代わりしてくれるのであれば、成年後見制度の利用を前向きに検討してもいいのではないでしょうか。

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